続 イヌの交配適期とプロジェステロン

 犬の交配適期についての相談を私が受ける中で、オーナー様からよくされる質問というのはけっこうあります。

 今回は私がパッと思いつくよくある質問について私なりの答えを書いていきます。

 この記事が普段の診療の補足になればなぁと思います。

 なお、以前私が書いたイヌの交配適期とプロジェステロンという記事を下のボタンクリックで読んでいただけるとより理解しやすいと思います。

①最初の測定はいつ?

 「犬の交配を考えていてプロジェステロンを測定したいんですけど測定できますか?また、いつ測定に行けばいいですか?」

 このような電話問い合わせはよくあります。

Q1 測定できるのか?

 当院ではいつでもプロジェステロン値の測定ができます。

 ・試験キットの在庫がたまたまない
 ・測定マシンがたまたま不調orメンテナンス中

 ということがない限りいつでも実施できます。
 ~念のため来院前に一度電話連絡いただいた方が確実です~

ただし、

 午前診療中は結果説明などにゆっくりとした時間をとれないため、必ず13時30分~16時30分までの間の来院をお願いしています。

また、

 「(高知県外のオーナー様の場合)血清を送付するので測定できませんか?」

 ということに対してはオーナー様とのお話を通して測定を引き受けるかどうかを決めています。

あと、

 測定できるのか?という点で、測定には採血が必ず必要なために採血できない犬の場合は測定できません。

例えば、

 かなり暴れる大型犬の場合は、そもそも採血できないので測定できません。

Q2 いつ最初の測定に行けばいいのか?

 原則として、発情出血開始から5日後を目安に最初の測定のために来院してください。

 まず、プロジェステロンの基礎値を知りたいので発情出血開始から5日前後で初回測定したいと思っています。

ちなみに、

 初回測定値はほとんどの例で1ng/ml前後になります。

しかしながら、

 発情出血開始から5日後に測定したのに値が3ng/mlだったという例外的なことが先日ありました。

 いろいろな理由が考えられますが、発情出血を見逃していたということも原因の一つと考えられます。

 実はもっと前に発情出血開始していた可能性があるということです。

 小型犬では出血を自分でなめてしまうために開始日が正確に分からなくなることもあります。

 交配を考える場合は発情前期の発情兆候である発情出血開始を見逃さないようにいつも以上に犬の様子を観察することが大切だと思います。

Q3 初回測定が発情出血開始から10日以上経過していたら?

 出血開始日から10日以上経過していても測定することは可能ですが、そういう時は交配適期が正確にわからないということがけっこうあります。

例えば、

 出血開始日から10日以上経過しての初回測定の場合

 プロジェステロン値が30ng/mlをオーバーしていると、LHサージの日はおそらく7日前くらいだろうか?というようにだいたいのことしか分かりません。
 ~こんな時は即交配もしくは即人工授精する必要がでてくるかもしれません~

この場合でも、

 プロジェステロン値が1ng/ml前後ならばこの先値を追って交配適期を決定できるのですが、数値がかなり上昇していると交配適期を推測するしかできなくなります。

Q4 発情出血開始が全然分からないですけど検査できますか?

 発情兆候がよくわからないほど弱い犬=鈍性発情の犬の交配適期を知ることは非常に難しくなります。

たしかに、

 任意の日からプロジェステロン値を3日おきにず~~~っと測定し続ければ交配適期はわかるかもしれません。

 しかし、現実的ではありません。

 費用も含めたオーナー様の負担、犬の負担を考えるとこんなことはなかなかできません。

仁淀ブルー にこ淵+水晶淵(安居渓谷)

↑記事関連で載せる写真がなかったので仁淀ブルーの写真を載せます。昨年、仁淀川町の水晶淵(安居渓谷)に行って私が撮った写真です。

仁淀ブルー にこ淵+水晶淵(安居渓谷)

↑県外の方にも多くこの記事を見ていただいていると思うので、この仁淀ブルーのすごさを感じていただきたいです。現地で実際見ると感動すると思います。高知県は観光としての魅力にあふれる県です。ベタなところではカツオも最高においしいです。スーパーで普通に売っているカツオの刺身、タタキのレベルもめちゃ高いです。県外のいいお店で食べるカツオより高知のスーパーの方が全然おいしいくらいレベルがすごいです。ぜひ、高知県に遊びに来てください。絶対、後悔しません。

②なんで何回も測定するの?

 以前の記事を読むとよく分かると思うのでここではかんたんに書きます。

Q5 初回測定した後に何日おきに何回測定したらいいですか?

 私の理想を言えば、2日おきにプロジェステロン値が基礎値から2ng/ml~4ng/mlに上昇するまで測定するということになります。

 ただ、これはほんとに理想です。

 プロジェステロン測定の費用は安くはないですし、採血することは犬に多少なりともストレスがかかります。

そういうことを考えると、

 3~4日おきにプロジェステロン値が2ng/ml~4ng/mlに基礎値から上昇するまで測定することが現実的だと思います。

 当院では3~4日おきにプロジェステロン値を3回~4回測定して交配適期が判明するケースが平均的です。

 私個人的には2日おきと3~4日おきで精度に大きな差は感じていません。

Q6 もう4回測定したけど1ng/ml前後さまよっています。ほんとに値はあがるんですか?

 あがります。

 LHサージがおこれば確実にあがります。ドラマティックに上がります。
 ~小型犬だと上がるときは嘘のようにあがります~

 あがらないということはLHサージがおきていません。
 ~サンプルやマシンや試薬の不具合が無い限り~

Q7 もう7回測定したけどまだ1ng/ml前後さまよっています。ほんとにほんとにほんとに値はあがるんですか?

 例外的にしばらくあがらないかもしれません。

 発情出血した後に排卵しないままいったん発情が終了してしまうこともあります。

 いわゆる無排卵発情です。

 こういう場合だとしばらくあがりません。

 分裂発情かもしれないので、発情がもう一回帰ってくるのを待つしかありません。

Q8 単回測定でなんとかならないの?

 なんとかならんこともないとは思いますが精度に欠けます。

 LHサージ後のブロジェステロン値の上昇具合は犬種サイズによって違うという報告があるし、個体差もあります。

なので、

 単回測定で10ng/ml超えていたら交配O.Kや、30ng/mlだから交配適期だ!という考え方は悪くはないと思いますがあんまりおすすめできません。
 ~これでうまくいく時もあると思いますがうまくいかない時もあります~
 ~プロジェステロン値が1ng/ml前後でないことだけは分かるので、なにも測定せずに交配するよりはいいのかなぁとは思います~

 排卵日のブロジェステロン値はこれ!交配適期のブロジェステロン値はこれ!みたいな絶対値は個体差がありすぎて存在しません。

とにかく、

 交配適期の正確な診断の為には単回測定よりもプロジェステロン基礎値確認からの経時測定がおすすめです。

なぜならば、

 LHサージが起きるとプロジェステロン値が基礎値から2ng/ml~4ng/mlに上昇するということは全ての犬で原則共通だからです。
 ~ちなみに前述ですがLHサージがおこった後(2ng/ml~4ng/mlを超えた後)のプロジェステロン値の上がり方は個体によりバラバラです~

③膣スメア検査ってどうなの?

 膣スメア検査のこともよく聞かれます。

Q9 膣スメア検査は結局いい検査なんですか?

 とてもいい検査だと私は思います。

 簡便な検査で費用もそれほどかからず、ある程度のことがわかるのですばらしい検査です。

 慣れた獣医師が慣れた手順で複数回検査すれば交配適期の目安を知ることができます。

 自然交配の+αとして膣スメア検査を利用するのがこの検査の理想的な活用法だと私は個人的に思います。

そして、

 いい検査ですが、ピンポイントで交配適期をバシッと診断には不向きだとも私は思います。

Q10 膣スメア検査の欠点は?

 すばらしい古典的な検査ですが欠点もあります。

欠点1 きちんと膣サンプルを採取しないといけない

 綿棒を膣の頭背側に入れて→膣壁で綿棒をそっとコロコロして→粘膜細胞を採取します。

 適切な場所から採取しないと結果が変わってきます。
 ~膣前庭や陰核のくぼみみたいなところからは採取しないほうがいいです~

 どこをどういうふうに採取するかに結果が左右されます。

欠点2 主観に満ちた検査

 膣スメア検査は超かんたんにいうと、膣上皮細胞の核の変化を観察する検査です。

 無発情期や発情前期では上皮細胞の核がはっきり見えているのですが、発情期になるとその核が濃縮したり核がなくなったり(=角化)します。

 全体の細胞の中で核がなくなっている細胞(=角化細胞)がどれだけあるのかという判断にはけっこう主観が入ると思います。

 最大限角化している!という判断なんてみる人によって大なり小なり違うと思います。

同じサンプルをみても、

 ある人は「いい感じに角化している」と判断し、またある人は「もうすこしだなぁ」と判断することもあると思います。

 主観と言う点で考えると同じ獣医師が数日おきに複数回膣スメアサンプルを観察するというのが一番よいと思います。

Q11 交配適期の判断はできるの?

 膣スメア検査は交配適期の判断目安にはなります。

 上皮細胞の角化のピークがLHサージの日だったりLHサージ6日前だったり3日後だったりするという報告があります。

ということは、

 膣スメア検査で「いい感じに角化している」と判断して交配適期を決めても、その日が早すぎだったり遅すぎだったりすることもあるということです。

だからこそ、

 膣スメア検査は交配適期のひとつの目安と考えるとともに、膣スメア検査の限界を知ることが大切だと思います。

 膣スメア検査には限界があることもこの検査の欠点と言えなくありません。

Q12 膣スメア検査とプロジェステロン検査で交配適期の判断が違った時は?

 私はプロジェステロン検査の結果を優先します。

 その理由はここまで書いてきた通りです。


 以上、(パッと思いつく)交配適期関連でよくある質問に対する私なりの答えでした。

 プロジェステロン値測定、交配適期のことで当院を受診する場合は必ず副院長を指名していただきますようお願いいたします。

2024年04月24日