ネコの尿道閉塞(尿閉)

 年間通してよく発生して

しかも、

 命にかかわる猫の疾患といえば…

 オス猫の尿道結石からの尿道閉塞(尿閉)

 がその一つになると思います。

 尿閉は水を飲む量や運動量が減少する冬に発生が多いと言われてはいますが

 私の経験上、季節に関係なくよく発生する疾患であると思っています。

ただし、

 季節に関係なく発生するとはいえ、

 流行しているのかな?と思うくらい次から次にオス猫の尿閉の診断・治療をする日が年に何回かあることを考えると

 気温・湿度・天気などの環境要因がその発生に関与してるだろうことは十分に考えられます。

そんなこんなで、

 今回はオス猫の尿道閉塞(尿閉)についての個人的見解を私らしい文章で書いていきたいと思います。

①オス猫の尿道閉塞(尿閉)とは?

 (腎臓で作られて)膀胱に貯められたおしっこは、尿道を通して体外に排尿されます。

 おしっこの流れは、

 膀胱→尿道→体外に排尿

 こんな感じです。

ということで、

 尿道は排尿のための最終通路として大切な道になっています。

もしも、

 この尿道がとおせんぼされてしまったとしたら…

 排尿できなくなってしまいます。

 おしっこしたくてもできない!

 考えただけでも地獄の苦しみだと思います。

 猫の尿道をとおせんぼするものは結石・結晶をはじめとして、生体からできたなんかの塊やゼリーみたいなものや血餅であったりします。
 ~とおせんぼといえば、ファミコンの桃太郎伝説にてでくる寝太郎を思い出します。橋の真ん中でとおせんぼしていました~
 ~「ひむろのなんちゃら」を探してひえんの術を使いまくったのはいい思い出です~

 尿道がとおせんぼされておしっこがでにくい、もしくは全くでない

 このような状態を尿道閉塞(尿閉)と呼びます。

 尿道の解剖学的構造上、尿閉はオス猫に発生が多くなっています。

②尿閉は早期発見が重要

 完全に尿道が閉塞されて、それに気付かれずに2日経過すると猫は命の危険にさらされます。
 ~急性腎不全からの尿毒症で命を落としてしまいます~

 尿閉は、様子を見る病気ではありません!

 放置する=死に直結します!

 尿道閉塞(たとえ部分閉塞であっても)に1秒でも速くオーナー様が気づいて、閉塞を解除することがなにより大切です。

 言葉が話せない猫を尿閉から救うためには、オーナー様の気付きが必要になります。

③どうやって尿閉に気付けばいいのか?

 オス猫の尿閉の症例で私がよく聞く主訴は、

 「猫がずっとトイレに座っている!」

 「おしっこがでてない!」

 というものです。

 オーナー様から見て比較的わかりやすい症状

 だと思います。

 排尿の様子を日々観察すること

 が尿閉の気付きにつながります。

 オス猫の排尿状況観察でオーナー様から見て違和感を感じたら

 尿閉かもしれない!

 とまず疑ってみてください。

そして、

 尿閉かもしれない

 と思ったら

④猫の下腹部を触ってみよう

 いま起きている尿閉の深刻度。または、「そもそも尿閉なのか?」は下腹部の触診である程度判断できます。

 お腹表面に触れるというより、片手で軽くおなかの中を探る感じで触ってみてください。
 ~尿閉の時は痛みの為に猫がお腹を触れられるのを嫌がることもあるので無理に触ることはやめたほうがいいとは思います。尿閉が疑わしいと思ったらすぐに動物病院を受診してください~

 オーナー様がお腹の中を触っても特に触知できるものがない状態であればおそらく緊急事態ではないと思います。

もしも、

 その時硬いボールみたいなものを触れたとしたらかなり危険な状態なので近くの動物病院をすぐに受診してください。

 その硬いボールみたいものはパンパンになった膀胱です。
 ~排尿できずに膨れ上がった膀胱です~

 それが硬ければ硬いほど尿道が閉塞してから時間が経過しています。

 尿道が完全閉塞して膀胱がパンパンになっていたらオーナー様でも触診によってそのパンパンの膀胱に気付けると思います。

とにもかくにも、

 オス猫には尿閉という命にかかわる病気があって、

それは、

 おしっこがでにくそう or でてない

 という典型的な症状があるということを覚えておいていただきたいです。

 このことを知っているだけでも大切なネコちゃんの命を救うことにつながります。

⑤尿閉の治療は閉塞解除から

 尿閉治療のファーストステップは、

 とおせんぼしているものに退去してもらうこと

 です。

 尿道口から硬めのカテーテルをいれて、生理食塩液の水圧で結石・結晶、その他栓子による閉塞を解除する処置

 をおこなうことになります。

猫の尿道カテーテル

↑当院に通常装備されている尿道カテーテルの一部。金属のカテーテルは尿道口近くの閉塞解除に絶大な力を発揮します。尿閉解除処置は大部分で無麻酔でおこないます。

 うまく閉塞が解除されたら、膀胱の圧力でおしっこがシャーッとでてきます。

 閉塞解除時のおしっこの色とおしっこの放物線の太さから得られる情報は大切で、

 (解除時の)おしっこの色が赤ければ赤いほど重症

 線の太さが細いほど、閉塞解除後の再閉塞のリスクがある

 と私は判断しています。

↑尿閉解除後の尿。すこし赤みを帯びています。この色でもあまりよくない状況だと思うのですが…下の写真のようだと閉塞からかなり時間経過しています。

↑閉塞解除後にこの色の尿だと膀胱、腎臓に過度の負担がかかっています。尿カテ留置だけでなくその他の治療も必要になります。とにかく早期発見ができるように獣医師として尿閉への気付きの大切さをオーナー様に説明していきたいと思います。

 閉塞解除後、上記所見やその他諸々を勘案して、

 膀胱洗浄をすることもあれば、カテーテルを尿道に留置することもあります。

 尿閉からの急性腎不全に陥っている場合はそれに対する治療もします。

場合によっては、

 カテーテルを用いてどうしても閉塞解除できない時や何度も何度も再発を繰り返している時は外科的な対応が必要なこともあります。
 ~ただし、当院では尿閉の外科処置については実施していません。対応できる動物病院様を紹介しています~

⑥尿閉の家庭での応急処置は?

 ネコちゃんのおしっこが出ていないことに深夜・早朝に気付いた。

 お腹をさわったら膀胱がパンパン

 いったいどうしたらいいのか?

 このようなケースもありうるかと思います。

 夜間動物病院が近くにあればすぐに受診するのが一番ですが、

 高知県では深夜・早朝対応できる動物病院がほぼないのですぐに受診できません。

なので、

 診察時間開始まで待たざるをえません。

 受診までにオーナー様になにか少しでもできることはないかなぁ?と考えた時に下記の方法がよいかなぁと思い診察中にもオーナー様にお話ししています。

 尿閉の場合、ペニスの先でとおせんぼされていることもあるので、

 包皮からでているペニスの先を軽くムニュムニュっとマッサージするだけで栓子がほぐれて尿道が開通すること
 ~ペニスの先に白っぽい栓子が見えていることもあります~

 があります。

 これで閉塞解除できないこともありますが、あくまで家でできる深夜・早朝の応急処置としてはいいんじゃないかなぁと私は思います。
 ~ただし、基本は動物病院に直行することです!~

⑦尿閉の再発予防

 尿閉を無事に解除して全身状態も回復。

 膀胱内に結石もしくは結晶がまだ確認できるけれど排尿も問題なく尿色もよい。

 このような状態になってからの再発予防が猫の尿閉を考える上でとても重要です。

 尿閉から回復後、とくに尿路疾患を意識せずにいままでどおりの環境・食事で生活していると多くのネコちゃんで再発します。

 何度も再発を繰り返していると腎臓にダメージが蓄積されるのでできる限り再発は避けたいところです。

 尿道結石を予防し尿閉再発を防ぐ!

 そのためには、下部尿路疾患用の特別療法食が一番おすすめだと思います。

 高価な特別療法食ってほんとに効果あるの?

 と思うオーナー様もいらっしゃるかとは思いますが、

 いろいろな症例を見る限り効果はたしかにあると実感しています。

 特別療法食と水だけで他のおやつ類、おいしそうなお食事を食べていないネコちゃんの再発は確かに少ないです。
 ~特別療法食と水以外のものも食べていると再発率が上がります~

 数ある尿路疾患用特別療法食でどのブランドがいいのか?ということもたまに尋ねられますが

はっきりいって、

 適応を間違わなければ好みの問題でどのブランドの製品でもよい

 と私は思います。

 ドクターズさんでもよいし、ロイヤルカナンさんでもいいしヒルズさんでもJPさんでもよいと思います。

ただし、適応は大切で、

 ここ最近の特別療法食はストルバイト結石とシュウ酸カルシウム結石の再発リスクを減らすことを適応としているのでいいのですが、
 ~ヒルズさんやロイヤルカナンさんの特別療法食は両方の結石の再発リスクを防ぎます。s/dという例外もありますが…~

なかには、

 ストルバイト結石だけに焦点をあてた特別療法食もあるので
 ~ドクターズさんやダイエティクスさんにはストルバイト結石にのみ焦点をあてた特別療法食が存在します~

だからこそ、

 尿閉解除と同時に尿検査などでどちらの結石なのか検査したうえで特別療法食を考えるとよりいいかなぁと思います。

ここで、

 上記にでてきたストルバイト結石やらシュウ酸カルシウム結石といった尿閉の原因として一番多いんじゃないかなと思う尿道結石(結晶)の主要2タイプについて紹介します。

⑦尿道結石(結晶)にはどんなものがあるのか?

 猫の尿道結石(結晶)には大きくわけて2タイプの種類があります。

 ストルバイト結石(結晶)とシュウ酸カルシウム結石(結晶)

 という2タイプになります。

 この2つは性格が異なり、細かく言うと対処法も異なります。

たとえるなら、

 ファミコンの同じ横スクロールアクションでも忍者ハットリくんとスーパーマリオを比べてジャンプの性格や対処法が違うことにも似ています。
 ~忍者なのになぜあんなにジャンプ力がないんだ…配管工の方が全然よくジャンプするじゃないか!~
 ~高橋名人の冒険島もそうなんですが、ファミコン時代のハドソンのアクションは操作に難があります~

分かる人にしか分からないたとえは置いておいて、

⑥具体的な違いを1つあげるとするなら

 ストラバイト結石(結晶)の場合、結石(結晶)の構成成分を制限して、尿のPHを酸性にすることで高い確率で石を溶解することができます。

 溶解がありうるという点で各種特別療法食の効果は十分期待できると思います。

 ストルバイト結石に狙いを絞った特別療法食もかなり効果があります。

それに比べて、

 シュウ酸カルシウム結石(結晶)の場合、内科的に溶解することはできません。

 内科的に溶解できるのかできないのかがこの2タイプの大きな違いだと思います。

 尿路疾患用療法食、ましてやストルバイト結石用療法食をどれだけ継続したとしてもシュウ酸カルシウム結石が溶解することは原則ありません。
 ~特別療法食をきちんと食べながらも尿閉が再発する理由というのはシュウ酸カルシウム結石が原因だったということもありました~

 シュウ酸カルシウムによる尿路結石や尿閉予防としては摂取水分量を増やして尿中のシュウ酸カルシウム濃度を下げるのが一番効果的なので、

 ミネラル成分がうまく調整されたシュウ酸カルシウムに効果がある尿路疾患用の特別療法食

しかも、

 摂取水分量を増やすためにウェットタイプのフードがおすすめです。

 この2タイプの違いを考えると、

やっぱり

 尿閉解除と同時に尿検査・エコー検査などでどちらの結石なのか知っておくことが再発予防の点でけっこう重要だと思います。


 どちらの結石だとしても、尿道結石や尿閉を予防するためには

 適応を見極めた特別療法食を利用しながら、

それだけでなく、

 ストレスの少ない生活、清潔なトイレといったネコちゃんにとって過ごしやすい環境を整えることが必要です。

最後に繰り返しますが、、

 尿閉というのはオーナー様の気付きがネコちゃんの生命を左右するので

 オスのネコちゃんで、

 おしっこがでにくそう or でてない

 という症状をみたらすぐにでも近くの動物病院に直行してください。

猫の情報
2023年06月10日